Stepan SimonianのJ.S.Bachトッカータ集

速めのテンポ、明晰なタッチで弾き進める楷書的なBach。それでいて情感にも不足せず、試験とかコンクールで弾く場合の(時代奏法などは考慮しない、あくまでモダンピアノによるアプローチとしては)お手本になりそうな演奏(廻由美子盤も同じような雰囲気だった気がする)。ピアノによる全曲盤は意外と少ないのでそういう意味でも価値がありそう。

Khatia BuniatishviliのChopinアルバム

Lisztアルバムで衝撃的(?)なソロデビューを果たしたBuniatishviliの第2弾はChopin。2番ソナタはLisztソナタほどのインパクトはなかったが、それでも凡百の演奏よりは彼女らしい主張があって面白く聴けた(特に終楽章は秀逸)。彼女の特徴が一番出ていると思ったのは2番協奏曲で、オケとの合わせが必要な協奏曲でこれだけ自分を出せる人も珍しい。終楽章コーダはArgerichを彷彿とさせるような超速弾きで、コンクールだったらきっとしかめっ面をする審査員もいるのではないだろうか。

Yevgeny SudbinのLiszt & Ravel

Sudbinはこれまで何枚か聴いていてそれほど魅了されるピアニストではないのだが、曲目に惹かれて買ってしまった。が、やっぱり印象はこれまでとあまり変わらず。どれも悪い演奏ではないし、彼の特徴(?)といえる左手の存在感が面白い部分のあるのだが、繰り返し聴きたいというほどには至らない。たとえば夜のガスパールだったら最近(もう最近でもないか)聴いたSchuch盤Grosvenor盤の方がずっと印象に残る。

Murray PerahiaのBeethovenピアノソナタ第4 & 11番

かねてからCD化を待ち望んでいたPerahiaのベトソナ4&11番だが、彼の40周年記念ボックスに含まれる形での初CD化となった。そのうち分売されるかもということで迷ったが、いつになるかわからないということで結局購入。というわけでまたしてもSony Classicalの抱き合わせ商法にやられてしまった(笑)。全集嫌いなのでこんなに大部のセット物を買ったのは初めてである。救いは68CD+5DVDで1万円ちょっとという安さか(最近では珍しくないが)。
何年かぶり(10年ぶり以上?)に聴いてみたが、自分の頭の中で勝手に美化が進んでしまったせいか正直「アレこんなだったっけ?」思うところもないこともないが、それでも自分の理想に一番近いところにある演奏であることには確か。ただ何たることか重大な欠陥があって、11番第1楽章冒頭の1小節が欠落している(CD化時の編集ミス?)。演奏が素晴らしいだけに非常に残念である。

Marianna Shirinyanのソロデビュー盤

Shirinyanはアルメニア出身(デンマーク在住)のピアニスト。収録曲はダンテソナタ、Bergのソナタ、MozartのソナタK330、Mansurian(1939-)の作品ということで、普通なら買おうかちょって迷って結局保留、というパターンになりそうだが、ネットで試聴したところMozartがなかなか良かったのと、最後の現代曲も面白そうということで購入。結果として、ダンテソナタはイマイチだったが、Mozartは期待通り優美でかつ一本芯の通ったなかなかの好演、Mansurianの作品も私の好きなビート感のあるタイプの現代曲で、ちょっとJazzのテイストも入ってて(Shchedrin風?)、繰り返し聴きたくなるような曲。総体として、技巧的にテクニシャンというわけではないけれど、センスのよいピアニストという印象である。

Gabriele BaldocciのBeethoven/Liszt交響曲第1,6番

こちらは通常のピアノを使っての演奏。解釈自体もオーソドックスで、多分Liszt的な勢いはWass盤よりこちらの方があってそこはまあ悪くないのだが、勢い重視のためか細部が多少曖昧になるのが惜しい。特に6番の終楽章はポイントとなるトリルやトレモロがクリアに聴こえないのが痛い。ちなみに今回のはVol.1で今後全集となる予定だそうだが、(曲的に6番が一番好きということもあって)次回以降を買うことは多分なさそう。

Ashley WassのBeethoven/Liszt交響曲第6番

少し前のMartynov盤と同じく時代楽器を使っての演奏だが、こちらの方がグッと心に残るものがある、というかこれまで聴いた中でもGould盤に次ぐかもしれない。Gould盤と同様に全体的にゆったりかつ一貫性のあるテンポで、また時代楽器特有の鄙びた音色と相まって田園らしいマッタリとした雰囲気が漂う。特に終楽章はテンポ設定といい終盤のトレモロの弾き方といい、Gould盤の影響を受けたのではないかと勝手に想像していまう。(彼自身によるライナーにはそんなことは書いていないが。)残念なのは、多分使用楽器の機能でバネを振動させたような特殊効果音(?)をときどき鳴らすことで、個人的にはこれは耳障りにしか聴こえない。

Stephen Houghの’French Album’

最近のHoughのソロアルバムはあまり感心しないことが多いので今回も買おうか迷ったが、結論としては久々の当たりと言えそう。冒頭のBach/Cortot/Houghのトッカータとフーガから動きにキレがあるし、道化師の朝の歌も模範的とも言ってよい演奏。他はFaure、Chabrie、Poulencなどあまり詳しくない曲なのではっきりとは言えないが、急速な曲でのシャープでかつデリケートなタッチがいかにも彼らしい。

Paul LewisのSchubertピアノ作品集

LewisのSchubert続編で、今回はソナタ第16番、さすらい人幻想曲即興曲集D935、楽興の時ほか。16番は15番と同様、第1楽章が意外なほど速いテンポでちょっと驚いたが、それでも非常に説得力があり、いつもながらの音の充実感も相変まって素晴らしい出来。一方、さすらい人はそれほど好きではない曲こともあってあまり印象に残らず、即興曲集もどちらかというとSchiffの旧盤の方が好みであったが、それでも16番ソナタを聴けただけでも今回の2枚組を買った価値はあったと思わせた。

Andras SchiffのJ.S.Bach平均律全集

SchiffのCDを買ったのは久しぶりだが、「Schiffも衰えたなぁ」というのが率直な感想。(もう60近いのである意味当然だけれど。)27年前の旧盤で見られたようなタッチや音色の絶妙なコントロールは後退しているし、何より旧盤で見られたような、ときに特定の声部を際立たせるような工夫や才気が感じられないのは寂しい。今回は解釈的にあまり色気を見せず、「何も足さない、何も引かない」のシンプル路線に徹したということなのだろうと思うが。
ちなみにECMと言えばFellnerの第2巻を首を長くして待っているのだが、最近はちょっと待ちくたびれてしまった。