Hardy RittnerのChopinエチュード全集

1835年製Conrad Grafピアノを使用。時代楽器による演奏は他にKhouri盤を聴いたことがあるが、それに比べるとよほどしっかりしているというか、時代楽器による演奏という意味では(それ以外の盤を聴いてないのに言うのもなんだが)1つのスタンダードたりうる演奏と言ってもよさそう。技術的にも解釈的にもあまりケチをつけるところがない。逆にKhouri盤のような突飛(?)な解釈がないのと、現代ピアノのような輝かしい音がないのはちょっと物足りないが、Chopin自身はこういう音を聴いていたのだなと思いを馳せるのも悪くない。

Behzod Abduraimovのデビュー盤


Saint-Saens/Liszt/Horowitz編のDanse macabre、Prokofievの悪魔的暗示にソナタ6番、Lisztのメフィストワルツなど、私の好みのツボを突いた選曲でかなり楽しみにしていた盤だが、結果的にちょっと残念な出来だった。冒頭のDanse macabreは悪くないのだが(この曲に対しては私がちょっと甘いのかも)、Prokofievは特に6番がメカニックの点で今ひとつ、メフィストワルツもデビュー盤のトリを飾るには平凡な出来と言わざるを得ない。

Yury MartynovのBeethoven/Liszt交響曲第2,6番


最近はBeethoven/Lisztの交響曲の録音も珍しくなくなってきているが、本盤は1837年製のErardを使っているところが特徴。その意味で音は時代楽器らしい鄙びた軽快さが感じられてよいのだが、音を除いた演奏自体はあまり特長というか魅力が感じられなかった。もっとも6番に関しては私の中でGould盤の存在が大き過ぎて普通の(標準的な)聴き方ができなくなっているのかもしれないが。

Orazio SciortinoのLisztピアノ編曲集


Lisztの管弦楽作品のピアノ編曲版を集めたアルバム。オルフェウスやレ・プレリュード、タッソーあたりを聴く分にはそれほど感じないのだけれど、Busoni編のメフィストワルツを聴くと、Kuleshov盤と比べてあまりに演奏が酷く、ほとんど同じ曲に聴こえないほど。(よくない意味で)要注意盤である。

Philippe HerrewegheのJ.S.Bachミサロ短調


Herrewegheの3度目となるロ短調の録音。モテット集のときは旧盤より合唱がより活き活きとして再録の価値が十分感じられたが、果たして今回も旧盤(2回目)に比べて合唱では輪郭がよりシャープになり、透明感も増し、彼はそこを狙っているのではないかと思わせる(旧盤の独特の柔らかさも魅力であるが)。ただ惜しむらくは独唱陣が旧盤ほどは充実しておらず、そのあたりは旧盤に軍配が上がる。

Banchini & BoetticherのJ.S.Bachヴァイオリンソナタ全集

BanchiniはKuijkenと並んでバロックヴァイオリンでは私の最も好き&信頼している奏者だが、その彼女の久々(?)のBach。演奏は期待通り、表情が非常に豊かで伸びやか、また音の運びに勢いがあって退屈さを感じさせるところがない。この曲はそれほどいろいろな演奏を聴き比べているわけではないが、かなり満足な出来で、今後の愛聴盤になりそう。

Jean-Efflam BavouzetのBeethovenピアノソナタ全集Vol.1


BavouzetのCDを買うのは実はこれが初めてだが、予想通りいかにもフランス的な、明晰かつ知情意のバランスがとれた演奏。ただ録音のせいか全体的にやや音が軽く、もう少し打鍵に覇気や力感が感じられればよかった。あるいはP.Lewisのような音色や響きの豊かさでもよいけど。というわけでVol.2が出たら買ってみたいかと言われると、微妙。

Anna VinnitskayaのRavelアルバム


デビュー盤のソロアルバムは今一つ、2枚目のコンチェルトは悪くないと思ったVinnitskayaだが、3枚目のRavel独奏曲集はやっぱり1枚目と同じような印象。冒頭の亡き王女のためのパヴァーヌこそ雰囲気が出ていて悪くないと思ったが、メインとなる鏡も夜のガスパールも、もう少しリズムや打鍵にシャープさ、キレの良さが欲しい。

Sasha GrynyukのGulda & Gouldピアノ作品集


Grynyukは'06年の浜コンにも出ていて、そのときは残念ながら2次で落ちてしまったのだが、筋がよくとてもセンスがあると思ったピアニスト。その彼がGuldaとG.Gouldの曲を集めて1枚のアルバムに仕上げるというユニークなことをやってきた(しかもこれがデビュー盤)。ただ残念ながら演奏はそれほど印象には残らなかった。(Guldaは当然ジャズなので私が不案内なせいもあると思うが。)特に注目していたGouldの"So You Want to Write a Fugue?"のピアノ編曲版も、ちょっと重い感じがして、原曲のような愉悦感がもっと現れていたらよかった。

Seiler & ImmerseelのBeethovenヴァイオリンソナタ全集


1,2,3番を収めたアルバムが'07年に出てからとんと音沙汰がなかったので、てっきり頓挫していたものと思っていたら、このたび全集がリリース。ただその間に素晴らしいKurosaki & Nicholson盤が完結しており、それと比較すると正直いまひとつ感が否めない。特に顕著なのがKreutzerソナタで、技術的制約からか急速部分でもテンポが上がらずもどかしいし、緊迫感にも欠ける。全体を通して唯一、私の好きな第8番だけはKurosaki盤とは別の魅力が感じられたが…。