Polina LeschenkoのLisztアルバム

Polina Leschenko [avanti 54147061027

EMIのdebutシリーズは数が多いわりに印象に残るCDは少ないというのは以前もちょっと書きましたが、その数少ない印象に残る演奏を残していたPolina Leschenko(ポリーナ・レスチェンコ)が、今回別レーベルからLisztアルバムをリリースしたということで早速聴いてみました。曲はJ.S.Bach/Lisztの前奏曲とフーガBWV543、J.S.Bach/Busoniのシャコンヌ、Lisztのファウスト・ワルツとロ短調ソナタ。Lisztリサイタルというタイトルなんですがなぜか関係ない曲(シャコンヌ)も入っています。

彼女のEMIデビュー盤は正確には'Argerich presents'シリーズの1つで、このシリーズでArgerichの推薦するピアニストにはLim Dong-Hyekのような優等生タイプとTiempoのような個性派タイプがいましたが、Leschenkoは明らかに後者タイプ。今回も期待に違わぬ大胆で奔放な演奏を披露してくれました。

まず最初のBWV543の前奏曲からまさに自由で即興的。これほど大胆なアゴーギクの演奏は初めて耳にするかもしれませんが、(オルガンでのトッカータ演奏のように)実に説得力を持っています。一方のフーガはもっとカッチリしたところが求められるだけに、大丈夫かなと思ったのですが、これもまた秀逸。かなり速めのテンポながらタッチや音色がしっかりコントロールされていて、声部の浮き立たせ方なども(ややロマン派的ですが)聴かせます。次のシャコンヌは今回の4曲の中では一番常識の範囲内の演奏でしたが、それでも緩急の差が激しく、(タッチがやや浅いところなども)浜コンでのHuangci嬢の演奏を思い出させるところがります。(それでもHuangci嬢の方が「おしとやか」ですが(笑)。)そしてファウストワルツもなかなかの暴れっぷり。出だしからしてかなり個性的なのですが、特に緩徐部分を過ぎて以降の畳み掛けるような技のキレはあっぱれという感じです。かなりのスピードの中でもすべてのフレーズに細かい表情やニュアンスが込められているところに感心します。最後のソナタも相当に個性的(Argerich盤よりも)で、多分ブラインドテストをしてもすぐわかるほどなんですが、前半はその解釈がちょっと唐突でやや空回りしている感がなきにしもあらず。ただフーガ以降の追い込みはやはり一気呵成に聴かせるものがあります。

というわけで、特にBWV543とファウストワルツは手持ちのCDの中でもかなり印象に残る出来と言えるでしょう。Tiempoと同様、今後私にとって目が離せない演奏家になりそうです。