MelnikovのScriabinピアノ曲集

Alexander Melnikov

Alexander Melnikov(アレクサンドル・メルニコフ)といえば、7,8年前に国内レーベルのSacrambowからデビュー盤(未聴)が出ていて、日本でもコンサートを開いたりしてそれなりに人気があるようですが、最近HMFの新進演奏家シリーズでScriabinのピアノ曲集がリリースされたので買ってみました。(「新進」と言ってももう30過ぎですが。)曲はソナタ第2,3,9番、幻想曲Op.28、5つの前奏曲Op.57、2つの詩曲Op.32、マズルカOp.24-3ほかです。

今回のScriabinは必ずしも私の得意でない曲も含まれるているのですが、それでも彼の演奏は聴かせるものがあります。格別にキレ味が鋭いとか、凄みがあるというわけではないのですが、音色が非常に巧みにコントロールされていて、Scriabin特有の幻想性がよく表現されていますし、歌のセンスも感じさせます。特に弱音での柔らかく陰影に富んだ音色は特筆すべきものがあります。3番ソナタに関して言えば、以前聴いたKissin盤も第1楽章の音の美しさが印象に残ったのですが、終楽章などでは最近の彼にありがちな勿体ぶった表現が多少気になったのに対し、今回のMelnikov盤では曲全体を通して細部までよく練られ非常に説得力がありました。といっても弱点がないわけではなく、ひとつはフォルテ和音でときに音が美しくない(パシャっとなる)ときがあること、もうひとつはフォルテ部分でのダイナミックレンジが必ずしも大きくないことで、このため幻想曲の後半では(以前聴いたTarasov盤などと比べると)もうひとつ盛り上がり切らない感じもあります。それでも9番ソナタなどはそういう欠点が見られず、繊細かつ大胆な表現とキレが相まってなかなかの名演だと思います。

10代で華々しくデビューしてもその後は尻すぼみ、という人は少なくないのですが、彼は(デビュー盤は聴いていないのではっきりとはいえませんが)無駄に歳は食っていないな、という感じです。今後も期待してwatchしていこうかと思います。