David Tongのデビュー盤

David Tong

David Tong(デヴィッド・トン)は1983年マカオ生まれ(現在はオーストラリア在住)のピアニスト。収録曲はRachmaninovの2番ソナタ(改訂版), 前奏曲23-5, 32-5、Chopinのスケルツォ第3番, エチュード10-1、Lisztの巡礼の年からヴェネツィアナポリ, メフィストワルツ, 超絶技巧練習曲第8番、ということで技巧的な曲を取り揃えています。(そこが私の興味を引いた点でもありますが。)

長年CDを買っていれば当然デビュー盤にも当たり外れが出てきますが、これは「当たり」でした。テクニックが優れているのはもちろんなんですが、単に優等生的演奏に留まらず、「攻めの姿勢」が見えるところが若者らしくてよいです。たとえばChopinの10-1は演奏時間が(最後の無音部分を除くと)ほぼ1分40秒でこれは手持ちの中でも最速の部類。個人的には速さを追求するよりも、落ち着いたテンポでも1音1音をくっきりさせた演奏の方が好きなのですが、それでもこの演奏(というか心意気)は是としたいです。メフィストワルツもスピード感や迫力など、Matsuev盤とEconomou盤を足して2.1で割ったような感じ(要するに私に好きなタイプの演奏)ですし、タランテラも指回りの鮮やかさが印象的。一方Rachmaninovは終楽章がやや爆発不足気味な気がしますが、第1楽章でここぞというときに見せるキレや緩徐部分でのセンスのある歌い回しなど、単に指がよく回るタイプではなく、Romanovskyのような音楽センスも兼ね備えたタイプなのではと思わせます。

もちろん細かく見ていけば精度の点でまだ向上の余地はありますが、最初に言ったように攻めの姿勢をより前面に出した結果と言えるかもしれませんし、今後のリリースに期待したいところです。