Paul LewisのBeethovenピアノソナタ集Vol.2(続き)

Paul Lewis

(前回からの続き)今回の収録曲の中で特に印象に残ったのは11,28,29番。11番は初期ソナタの中では4番に次いで好きな曲(Beethoven自身もお気に入りの曲だったとどこかで読んだ覚えがある)で、第1楽章は例によって普段よく聴いているEl Bacha盤に比べると溌剌さや快活さにはやや欠ける感じはあるのですが、第2楽章が気に入りました。正直この楽章はそれほど好きではなくて、ちょっと退屈な感じがしていたのですが、彼の演奏は速めのテンポということもあって淀みなく流れていくのがよいです。同じような意味で気に入ったのが29番(ハンマークラヴィーア)の第3楽章。この楽章も、あまりに感傷的な演奏が多くて、それが20分も延々と続くので辟易することも多いのですが(正直、ウジウジしないでもっとシャキっとせい!と言いたくなることもある)、Lewisの演奏はテンポこそ普通ですがあまりセンチメンタルにならず、ロジカルというか、音楽が常に前進する意識が感じられるのがよいです。このソナタの終楽章(フーガ)は昔Gouldの演奏を聴いてその良さに開眼した(今ではダントツに好きな楽章)のですが、今回のLewisの演奏が第3楽章に開眼するきっかけになるかもしれません。28番は、終楽章のフーガが、一部技術的にやや無理な書法があるせいか満足できる演奏が少ないのですが、Lewisは例によって落ち着いたテンポをとったせいでそのような無理が感じられないのがよいです。

逆にどうしても賛成しかねるのがワルトシュタイン。第1,2楽章はまあ悪くないのですが、終楽章はさすがにテンポ遅すぎで、それでも一定のテンポをキープしてくれればよいのですが、微妙にテンポを揺らすところが個人的には受け付けません。まあ32曲もあれば(しかも名盤目白押しの曲であれば)一人の演奏家のすべての演奏が気に入るということはまずないので、今回のように印象に残る演奏があるというだけでも大いに価値があると言えるでしょう。