Markus BeckerのBeethovenピアノソナタ第29&3番

Markus Becker

Markus Becker(マルクス・ベッカー)というと、彼の弾いたゴルトベルク変奏曲はこの曲のピアノによる演奏の中でも3本の指に入るくらい好きな盤なんですが、その彼がBeethovenの29番と3番のソナタを入れた新譜をリリースしたということで購入してみました。

聴いてみましたが、29番が特にいいです。彼の弾くゴルトベルク変奏曲では、(特に後半で)平静で力みのない演奏に大いに魅力を感じていて、ハンマークラヴィーアもその路線かと思っていたのですが、こちらは至極真っ当というか、力感溢れる正統派的な演奏。特に第1楽章は豊かで輝かしい和音の響きが魅力で、作曲者指定の細かいアクセントなども忠実に実行しており(さすがにテンポは忠実にというわけにはいきませんが)この楽章に関してはこれまで聴いた中でこれまた3本の指に入るかもしれません。私の大好きな終楽章フーガもかなりいいんですが、こちらはその力感のためか要所に多少タメが入って微妙にインテンポ感が失われるところがあって、そこが少し惜しいかな(といってもこれも好みの問題ですが)。実はこのフーガでは、ゴルトベルク変奏曲でのような平静で落ち着いたアプローチ(Gouldのような)がされているのでは、と密かに期待していたのですが、彼はあくまで楽譜に忠実にいったようです。

一方の3番の方は、第1楽章が少しユルい、というか、やはりタメなどアゴーギクを割と多用しているせいかCzerny的(指の運動的)なパッセージでの猪突猛進ぶりが少なく、多少物足りない感じがあったのですが、繰り返し聴くうちにこういう(ややロマン派的な)アプローチもアリかなと思うようになりました。実のところ、最初聴いたときは「レコ芸風に言えば29番は『推薦』、3番は『無印』」なんて書こうと思っていましたが、これはこれで味わいがありそうです。

ところでネットショップなどに載っている宣伝文では使用楽器が「フォルテピアノ」となっていますが、実際は通常のモダンピアノ(Steinway)です。恐らく原文のライナーで'fortepiano'となっているのをそのままカタカナ化したのだと思いますが…。