時代楽器の呼び方

私は「時代楽器」という言い方をするのですが、世間一般的にはそれほどポピュラーとは言い難く、でも私がこの言葉を使うのはそれなりの理由があります、ということで今回はその話。

世の中でいわゆる時代楽器を指す言葉としては以下くらいがあるでしょうか。

古楽器(early instrument)は多分もっとも昔からある言い方なんですが、何をもって「古い」とするのか甚だ曖昧という話があって、たとえば古楽early music)ならばある時期(たとえばJ.S.Bachより前)の音楽を指すということでよいのですが、古楽器はそういうわけではないので、本場ではあまり使われなくなっています。また日本では古楽古楽器が多少ごっちゃになっている感じもあります。

オリジナル楽器(original instrument)は、古楽器に代わって(?)一時期よく使われましたが、元の楽器をコピーして作ったコピー楽器が普及してくると、コピー楽器なのにオリジナルとはこれいかに?ということなのか、これも向こうではあまり使われなくなりました。

代わりに最近広く使われているのが'period instrument'で、「作曲された当時の(その時代の)楽器」という意味合いとなり、確かに一番しっくりくるということで、英語ではこの言い方が主流になっていると思います。

問題はそれを日本語にしたときで、そのままピリオド楽器とするのは、カタカナ語の氾濫に拍車をかけるようなあまりに能がないやり方で、そもそも普通日本語でピリオドと言ったら終止符(.)のことで、せいぜいアイスホッケーの第1ピリオドなどのように使うくらい。一般の人にはピリオド楽器と言っても「なんのこっちゃ」でしょう。

そもそも'period'には「時代」というピッタリの訳語があるのに、それを使わない手はありません。時代劇、時代精神、時代色など、「時代」には「その当時の(古い)」という意味があります。時代劇は英語でも'period play (drama)'ですし、時代小説は'period novel'、江戸時代は'Edo period*1'とくれば、'period instrument'は「時代楽器」とするのが一番自然でしょう。

「同時代楽器」はピリオド楽器よりはずっとマシですし、意味的にも明確で悪くないのですが、やや説明的過ぎるというか、熟語としてこなれていない感じがします。(そもそも「時代」に「同時代の」という意味が含まれているのでわざわざ「同」を付けなくてもよい気がします。)

ちなみに各言葉をGoogleで検索してみると、件数は以下のようになりました。

  • "古楽器" -- 176,000件
  • "オリジナル楽器" -- 54,500件
  • "ピリオド楽器" -- 23,600件
  • "時代楽器" -- 1,707件
  • "同時代楽器" -- 116件

今後は『時代楽器』を普及させるべく、しつこく使っていきたいと思います:-)。

*1:Edo eraとも言います