ルール・ピアノフェスティバルという音楽祭の存在はつい最近まで知らなかったのですが、少し前に過去(1997-2005年)のライヴ録音が一挙にリリースされています。演奏者の顔ぶれなどを見ると結構興味が湧くのですが、Vol.1-8は10枚組BOXという大部なのでひとまず保留して、まずは3枚組のVol.9を味見がてらに買ってみました。ちなみにVol.9は'Transcription & Paraphrase'ということで(2005年の演奏の中で)編曲物を集めているというのも興味をそそるところです。(ただしCD3はボーナスCDということで編曲物とは無関係。)
この中で特に気に入ったのは日本でもおなじみのNikolai Tokarev(ニコライ・トカレフ)の弾くRimsky-Korsakov/S.Kursanov(1947-)のシェエラザード・パラフレーズ。有名な交響組曲のおいしいところを15分に凝縮したような曲なんですが、知らずに聴いたらこれってLiszt編曲?と思うような、全編華麗な技巧に満ちた理屈ぬきに面白い作品に仕上がっています。特に最後のクライマックス(冒頭の海のテーマが戻ってくるところ)はもし生で聴いていたら血圧が20は上がったのではないかと思うような盛り上がり方で、Tokarevの演奏は多少強引なところもありますが、私のようなLiszt好きにはたまりません。この曲は今後もっと演奏機会があってよいように思います。もう一つ彼が弾いているWagner/Pavtchinski(1909-1976)のニーベルングの指輪からの3曲(森のささやき、ジークフリートの葬送行進曲、ワルキューレの騎行)もなかなかの出来で、特に最後のワルキューレは、これまで聴いたこの曲のピアノ版の演奏の中では最もしっくりくるものかもしれません。(編曲というより演奏の出来がよいのかも。スピード感に溢れています。)
次いで印象に残ったのがKirill Gerstein(キリル・ゲルシュテイン)の弾く、Kreisler/Rachmaninovの愛の悲しみ、愛の喜びと、E.Wildの8つのヴィルトゥオーゾ・エチュードからの2曲。Gersteinは以前Oehmsから出ていたデビュー盤を聴いたときは生真面目な演奏をする人だな、くらいにしか思わなかったのですが、今回は愛の悲しみなど堂に入った歌いっぷりでセンスを感じます。Wildのエチュードも、デビュー盤に入っているのを聴いたときにはさほど印象に残らなかったのですが、今回はライヴということもあるのかとても生き生きとした秀演。正直彼のことはちょっと見直した感じです。
ただすべてがよい演奏というわけではなくて、A & J.Paratoreによる2台ピアノの演奏は全体的にイケマセン(渡邉包夫風)。特にCD1の最初に入っているTchaikovsky/Economouのくるみ割り人形組曲は、テンポは揺れるは、音は揃ってないは、細部は誤魔化し気味だはと、最初に聴いたときはこれはヤバイかも、と思ってしまいました。CD2に入っているR.Straussのティル・オイレンシュピーゲル、ドン・ファン、薔薇の騎士からのワルツも、くるみ割り人形ほどではないにしても似たような傾向で、聴き通すのがつらいところもあります。
というわけで全体的には玉石混交ですが、当たれば面白いということがわかったのでVol.1-8も注文してみました。入手したらおいおい感想を書いていきたいと思います。
ちなみにCD3は現代作曲家達によるいかにも現代音楽という感じの(要するに私が苦手とする)曲を集めたもの。世紀が変わってもこういう音楽の需要(?)と供給はなくならないのだなと別の意味で感心した次第です(笑)。