AngelichのBrahmsピアノ曲集

Nicholas Angelich

久々に新譜の感想。Nicholas Angelich(ニコラス・アンゲリッチ)のBrahmsピアノ曲集です。曲は4つのバラードOp.10、2つのラプソディOp.79、パガニーニの主題による変奏曲Op.35。Angelichと言えば、ここにも書いたようにデビュー盤のRachmaninovの音の絵が非常に印象的で(その前の'92年の日本国際コンクールの本選のRachmaninovの3番を聴いたときもなかなかよいピアニストだと思っていましたが)、それ以来気になるピアニストの一人です。彼の特徴として、技巧的にかなりのものを持っているにもかかわらず、それを前面に出すことをせず、むしろセンスの良さや抒情性が光るところでしょうか。ちなみに'92年のコンクールのプログラムを引っ張り出してみたら(私は聴けなかったのですが)2次でパガニーニ変奏曲を弾いているようで、若い頃からレパートリーに入ってるようなので期待できそうです。

今回も例によってそのパガニーニ変奏曲が興味の中心なのですが、聴いた感想はというと、悪くはないけど期待に比べるともうひとつかなというところ。技術的にはそこそこなんですが特に印象付けるというほどではなく、一方の持ち前の音楽センスの方も、技術的難度の高さからか(1巻第6変奏のようにときにハッと思わせるところもあるのですが)それほど発揮されている感じがなくて、全体的にどこか中途半端というか、彼の個性がそれほど表れていないようです。一方のバラードとラプソディはそれほど好きな曲ではないのではっきりとは言えませんが、こちらの方が彼の美質が表れているように思います。内省的で落ち着いたテンポ、音をよく吟味しており、詩情が感じられます。ただ部分部分を大事にし過ぎる余り、ときに流れがやや沈滞した感じもなきにしもあらず。例えばバラードの方は、Zimerman盤が手近にあったので聴き比べてみたのですが、Zimermanの方がハキハキとしてストレート、若さが感じられます。どちらがいいか一概に言えませんが。

ところでAngelichはアンゲリッシュとかアンジェリクと書かれることもあるようで、アルゲリッチと紛らわしいのでレコード会社等からはそちらの表記が推奨されているのでしょうか。そういえばマウリツィオ・バリーニ(Maurizio Baglini)という人もいて、'97年の浜コンにも出ていてなかなか実力のあるピアニストなのですが、Polliniのバッタモンみたいに(「エノケソ」とか「山止たつひこ」の類)に思われてちょっと可哀相です(笑)。

もう一つ余談で、前回(1/27)のブロクではTilneyのMozartについて書きましたが、実はこの日はMozartの誕生日だったんですね。あとで気がつきました。本当は今日の話とどっちを先に書こうかと思っていたのですが、あの日に書かせるとは何かのお導きがあったのかもしれません(んなわきゃーない(笑))。