Bernd GlemserのJ.S.Bach編曲集

Bernd Glemser [OC 706]

前回のRachmaninovアルバム以来のBernd Glemser(ベルント・グレムザー)の新譜はJ.S.Bachの編曲集。Rachmaninovは正直今ひとつの出来でしたが、まだ見限ったわけではないので今回も買ってみました。曲はBusoni編のシャコンヌ前奏曲とフーガBWV532とBWV552、オルガンコラールから4曲、Rachmanino編の無伴奏ヴァイオリンパルティータ第3番から3曲、Kempff編のシチリアーノ、そしてHess編の主よ人の望みの喜びよ。

結論から言うとやはり今回も駄目でした。最初のシャコンヌは序盤のゆったりした変奏部分からどうも足取りが重いというか表情や感興に乏しく、急速な変奏に入ってやっと動きが出てくるのですが、それでも技のキレなど特に印象に残るというほどではなく、悪く言えば平凡。オルガンコラールでは、「いざ喜べ、愛するキリスト者のものたち」がえらく速いテンポで始まって(今まで聴いた中でも最速かも)ここで彼のテクニシャンぶりが発揮されるのかなと思いきや、アグレッシブなテンポに右手の16分音符の精度がついていっておらず、人によっては半崩壊していると感じるかも。そしてBusoni編の中で私の一番好きなBWV532は、前奏曲部分がやはり面白みに欠け、棒弾きとまでは言いませんが、タッチや音色の変化が乏しくただ単に楽譜をなぞっているかのような印象を受けます。(このあたりの表現の巧みさは去年聴いたBaglini盤が印象に残ります。)一方フーガは後半になって片手での重音進行が多くなってくると滑らかさが失われてきたり、あるいはタメが入ってきたりと技術的にちょっと苦しい。同様にRachmaninovのパルティータ3番のプレリュードも出だしはよいのですが後半はインテンポが保てず聴いていてだんだんつらくなります。という調子で、全体的にシンプルな曲では味わいや語り口の巧さに欠け、技巧的な曲ではキレが見られず、美点を見出すことがなかなか難しいアルバムになってしまいました。残念ながら今後彼のCDを買う心理的障壁が一段と高くなってしまったようです。