Daniel-Ben PienaarのGibbons鍵盤作品全集

Daniel-Ben Pienaar [DXL 1126]

Gibbonsの鍵盤作品をヴァージナルやチェンバロなど時代楽器で弾いたCDはそこそこ見かけるのですが、今回のは珍しくピアノによる演奏。しかも全集です。演奏はDaniel-Ben Pienaar(ダニエル=ベン・ピエナール)で、彼のCDはこれまでJ.S.Bachの平均律を聴いたことがあるのですが、正直それほど感心していなくて、でも今回は曲と使用楽器の組み合わせにかなり興味をそそられて買ってみました。(ちなみに全集でも2枚に収まるんですね。知りませんでした。)

ピアノで弾いたGibbonsというと、やはりGouldの演奏が思い出される(というか私も彼の盤でGibbonsの鍵盤曲の存在を知ったクチ)のですが、Gouldの才気ほとばしる演奏に比べると、Pienaarのはずっと真面目というか素直に曲に取り組んでいるなという印象です。時代楽器を強く意識したという風でもなく、また(RameauでBartoが見せたような)現代ピアノの特性を極限まで引き出したようなロマン的なアプローチでもなく、自然体でピアノに向かっていると言ったらいいでしょうか。またJ.S.Bachの平均律では細部の仕上げや精度の点でちょっと不満が残ったのですが、今回はそれほど聴き込んだ曲ではないこともあってかそういうこともあまり感じません(曲自体の自由度も高いというのもあるでしょう)。ただトリルなどのすばやい装飾音ではたまに心もちクリアでないところがあって、チェンバロや、あるいはGouldのようにタッチの非常に軽い特殊なピアノを使っているわけではないので、そういった点でピアノの重い鍵盤がちょっとハンデかなと思わせるところはあります(もちろんそれを補って余りある利点があるわけですが)。それでもときおり特徴的に現れる速い走句がとてもピアニスティックで、これらの曲はもっと(ピアノで)弾かれてよいように思います。

ライナーノートを見ると今後はJ.S.Bachのパルティータやゴルトベルク変奏曲を録音予定のようですが、個人的には今回と同じようなニッチ(?)路線でByrdとかSweelinckとか、あるいはFitzwilliam virginal bookのような曲集を’ピアノで’弾いてくれたらきっとまた買うのにな、と思ったりします。