川島基のデビュー盤

Kawashima Motoi

川島基(もとい)は'98年の音コンや2000年の浜コンで何回か聴いたことがあるのですが、2005年のSchubert国際コンクール優勝のご褒美(?)としてデビュー盤がリリースされていて*1、曲目を見るとSchubertソナタ第19番D958、Schubert/Lisztの春の想い、水の上で歌う、Wagner/Lisztのイゾルデの愛の死、Tchaikovsky/Pletnevのくるみ割人形、とかなり私好み、ということで早速購入してみました。

聴いてみましたが、全体的になかなかの好印象です。特にメインとなるSchubertソナタが気に入りました。キビキビとしたテンポと明確なアーティキュレーションを基本としながら、アクセントや緩急、強弱など私がこの曲を聴く上ではずせないと思っているポイントは(もちろん好みがあるので完全に理想通りとはいきませんんが)ことごとく押さえていて、さすがにSchubertコンクールで優勝するだけのことはありそうです。全体的にファンタジーに溢れるというよりは、内声の処理などでの読みの深さやガッチリとした構成感のようなものに秀でているという感じでしょうか。少し残念なのは、多分録音のせいなのでしょうが、特に高音部でピアノの音がやや痩せ気味なこと。もう少し充実した響きがあればもっとよかったと思います。それに関連して、緩徐部分など歌うところではさらに柔らかくニュアンスに富んだ音色(それこそこの間のVoldosのような)があるとよいかな。それでも秀演には違いはなく、この曲の演奏の手持ちのCDの中でも3本に指に入りそうです。

もう一つの目玉であるくるみ割り人形も好演。第1曲(小行進曲)から指回りが冴えていて、技術的に安心して聴けます。終曲のアンダンテ・マエストーソの終盤のアルペジオもキレがあって聴かせます。ただこちらも全体的に表現にさらに陰影やコクのようなものが出るとよいかもしれません。残りの小曲では水の上で歌うが、Schubertソナタと同様、強弱・緩急が私の好みのツボを押さえていて好印象ですが、さらに甘い音色あればよいかなというのもソナタと同様ですね。

*1:とある方からメールでこのCDのことを教えていただきました。