Babette Dornの’Don Giovanni -- Adventures on the Piano’

Babette Dorn

Mozartイヤーということでいろいろ企画物のCDが出ていますが、これは'Don Giovanni -- Adventures on the Piano'ということで、「ドン・ジョヴァンニ」に関して様々な作曲家による編曲や変奏曲などを集めたもの。特徴としては、序曲で始まり地獄落ちで終わるというように、ほぼ劇の順を追って曲が並んでいることと、全11曲中6曲が世界初録音*1というように割と珍しい曲が多いということでしょうか。あと、ヴィルトゥオーゾ的な曲(例えばLiszt物のような)はほとんど含まれておらず、そのあたりは物足りないと思う人はいるかもしれません。演奏は女流のBabette Dorn(バベッテ・ドルン)で、ちなみにこの後「フィガロの結婚」と「魔笛」版もリリースされる予定のようです(ライナーには既にそれらのジャケも載っている)。

聴いてみた印象としては、上にも書いたように多少物足りない面もあるけれど全体としては良いコンセプトでまとめられていてまずまずといった感じです。冒頭のHummel編による序曲(これも世界初録音だそうな)などを聴くと、ややキレに乏しく指回り的にちょっとキツいかなと思うところもありますが、弾き飛ばすことなく丁寧に弾いていて、誠実といった言葉が似合います。また全体的に粒立ちがよく透明感のある音、かつ端正な表現で、そういった意味では技巧的な編曲物よりはCramerやF.X.W.Mozart(W.A.Mozartの末子)などによる古典派的な変奏曲の方が向いているような気がします(し、曲的にも魅力があったかな)。あと印象に残った曲としてはRheinbergerの「恋人よこの薬で」の主題によるフーガと、Dorn自身による舞踏会の場面の編曲。RheinbergerというとBachのゴルトベルク変奏曲の2台ピアノ版くらいしか知らないのですが、この曲ではRegerのようなゴテゴテさはなく、シンプルかつ魅力ある小品に仕上がっています。一方のDornの編曲は多重録音を使っていて、三つのリズムの異なる舞曲が同時に奏されるあたりはちょっと現代風な響きがして面白いです。最後の石像の登場から地獄落ちにかけては私の好きな場面なんですが、Bizetの編曲は原曲に比べると迫力不足は否めないですね。ちなみにBizetはドン・ジョヴァンニ全曲を編曲していて、そのCDもどこかで見かけた気がしますが(記憶違いかも)、いずれにしても(この部分を聴く限り)ちょっと通して聴く気にはならないですね(笑)。

*1:この手の「初録音」の謳い文句がどの程度信頼できるものかよくわかりませんが。