Christoph GenzのJ.S.Bachカンタータ・アリア集

Christoph Genz

S.KuijkenのOVPPによるJ.S.Bachのカンタータ集での歌いっぷりから、テノールのChristoph Genz(クリストフ・ゲンツ)にちょっと興味を持っていたのですが、ちょうどよいタイミングで(と言っても少し前ですが)別レーベルからJ.S.Bachのカンタータ・アリア集が出ていたので買ってみました。収録されたアリアは10曲で、いずれもKuijkenのこれまでのカンタータ集には含まれていないものです。(ちなみにアリア以外にシンフォニアのようなオケ曲が4曲含まれています。)

いずれの曲も、特に好きで聴き込んでいるとか、思い入れがあるというわけではないのではっきりとは言えないですが、概ね期待通りの良い出来です。彼の特徴として、声が柔らかく響きがあって表情豊か、また声域がやや高めで曲によってはどこかカウンターテナーのような趣があります。特に印象に残ったのは95番の'Ach, schlage doch bald, selge Stunde'。弦のピチカートによる伴奏の上で繰り返される'schlage doch'という歌声が、一度聴いたら忘れられない強い印象を残します。また19番の'Bleibt Ihr Engel, bleibt bei mir!'も(個人的にはややヴィブラートが多目かなとも思いましたが)朗々とした歌いっぷりが気持ちよいです。一方で、急速なパッセージでの安定感とか音程の確かさとか、そういう点に関してはちょっと弱いかなという感じもあり、このあたりは(現時点での)モダン楽器と時代楽器のヴァイオリン演奏の関係に似てなくもありません。もちろん声質や発声、歌唱法など、そういう面を補って余りある魅力があるわけですが。ちなみにこの機会に今回の収録曲を、同じ曲を収録している手持ちの他盤(Gardiner, Herreweghe, Koopman, Milnes, Mallon盤)と聴き比べてみたのですが、いずれもGenzの方に軍配が上がりそうです。ただ1曲、198番の'Der Ewigkeit saphirnes Haus'については、Genzは長いメリスマ部分で多少不安定なところがあって、その点でGardiner盤のAnthony Johnsonの安定感が光っています。

ともあれGenzには今後もKuijenカンタータ・シリーズの不動のテノールとして頑張って欲しいところです。