BagliniのBach/Busoniピアノ編曲集

Maurizio Baglini

カタカナで書くとPolliniと一字しか違わないため日本では紛い物扱いされることもある(笑)Maurizio Baglini(マウリツィオ・バリーニ)ですが、J.S.BachのBusoniによる編曲集というやや意外な方面から新譜を出してきました。曲はトッカータアダージョとフーガBWV564、トッカータとフーガBWV565、シャコンヌ、コラール前奏曲から4曲。

全体的にはとても好感の持てる演奏でした。何といっても音色の変化やコントロールが非常に巧みで、Bachということで各声部の弾き分けが非常に重要ですし、またオルガンでのストップの変化の効果をピアノで実現することがこの曲を演奏する上で鍵になるのですが、そのあたりの技が光ります。ノンレガートやスタカートのタッチなども多用しており、さならがらタッチや音色のカタログを見るかのよう。特に弱音部分でのコントロールが抜群で、BWV565のフーガの出だしや「目覚めよと呼ぶ声」でのとろけるようなまろやかな音色が印象的です。シャコンヌでは冒頭主題をpで始めるという変化技で攻めてきますが、これはこれで説得力を持っていますし、その後も個性的な解釈というか工夫が溢れ、競合盤がひしめく中でこれは確固たる存在価値を持つ演奏と言えます。

一方でアゴーギクがやや自由というか、フレーズの変わり目で間を入れたりして、そのあたりトッカータのような自由な書法の部分ではよいのですが、フーガではもう少し楷書的(例えばRoeselのような)であった方がよい気もします。それでもそのアゴーギクや内声の出し方などでのセンスが感じられ、このあたりは(Chopinのエチュード集でも感じたことですが)彼の持ち味になっているようです。

少し残念なのは収録時間がやや短め(約60分)なこと。あと1曲ぐらい、できればBusoni編曲の中で私の一番好きな前奏曲とフーガBWV532あたりを入れてくれれば非常に嬉しかったのですが。