TiempoのMussorgsky展覧会の絵ほか

Sergio Tiempo

Sergio Tiempo(セルジオ・ティエンポ)というピアニストは、名前はもちろん知っていたのですがこれまで聴いたことがなくて、多分最初は何かアイドル的な売り出され方をしていてそれで敬遠していたのだろうと思うのですが、今回EMIからMussorgskyの展覧会の絵Ravelの夜のガスパールなどが入ったCDがリリースされたので(ちょっと迷ったのですが)買ってみました。

聴いてみたのですが、正直、軽い衝撃を受けました。これほどテクニックがあり、かつ(良い意味で)面白い演奏をする人だったとは。まず展覧会の絵ですが、ここにも書いたように私はこの曲は端正で均整の取れた演奏が好みなんですが、Tiempoの演奏はむしろ逆で、とても自由で結構デフォルメもあったりするのですがそれが嫌味でなく、自在で闊達な演奏になっています。楽譜の指定から外れているところも結構あって、例えばビドロは弱音から開始して(これは結構ある)、左手の伴奏音型の裏拍をスタカートにしているのはオヤっと思わせますし(Horowitzの影響?)、またリモージュの市場の前のプロムナードはRavel編と同じくカットしています(その際前の曲の最後の和音が鳴り終わらないうちにリモージュが始まるのは非常に効果的!)。特に印象的だったのは二人のユダヤ人での冒頭の金持ちの部分で、この語り口は普通の演奏よりも説得力がありました。最後の2曲のスピード感や迫力も大したもので、その他にもいろいろ面白い表現がありますが(逆にちょっと不満なところもある)全体的にとても生き生きした演奏です。

そして夜のガスパール展覧会の絵に劣らない出来です。なんと言ってもスカルボのスピード感と技巧の切れ味の良さはやはりこれまで聴いた中でベストを争うものと言えます。Lortieのような精緻で模範的演奏タイプというよりもっとダイナミックで奔放ですが、むしろそれが曲に合っているかもしれません。また絞首台は、本来は終始弱音で淡々とした音楽だと思うのですが途中でエッと思うようなフォルテがあったりして、こんなところでも個性が出ています。

いずれの曲も一言で言うと非常に「活きのいい」演奏と言えるでしょう。というわけでこれまでTiempoは聴かず嫌いだったことを反省した次第です(^^;)。