DemidenkoのClementiソナタ集

Nikolai Demidenko

前回に引き続いてDemidenkoのCDで、Clementiのソナタ集を。前回のSchubertと買うときに、そういえば彼のClementiも聴いてないな、ということでこの機会についで(?)に買ってみました。ついでというのも、実はClementiはどうも私の食指が動かない作曲家で、といっても余り真面目に聴いたことがなく(そういえば昔日本アマコンの課題曲で、Mozart, Haydn, Beethovenと言った定番作曲家と並んでClementiが挙げられていてちょっと意外に思ったものでした)、どちらかというと聴かず嫌いな部類に入ります。というわけで今回はDemidenkoの演奏がどうのというよりも、Clementiの曲に対する感想が主になります。曲は(収録順に)ソナタのOp.40-3, 25-5, 24-2, 40-2。'94年録音。

まず最初のニ長調Op.40-3は第1楽章が初期のBeethovenソナタ風で、個人的には今回一番気に入りました。特に第1主題が魅力的です。BeethovenがMozartよりもむしろClementiを範にとったという話も頷けます。嬰へ短調Op.25-5は第1楽章がどこかScarlattiの緩徐ソナタ風。(多分これだけ聴かされたらScarlattiの作品だと思ってしまいそう。)第3楽章は3度が印象に残るヴィルトゥオーゾ的な曲で、そういえばMozartが有名なClementiとのピアノ「対決」の後に父親に宛てた手紙で、Clementiのことを「3度は上手いけど…」なんて言っていたことを思い出します。変ホ長調Op.24-2は第1楽章を聴いて、どこかで聴いたことのあるメロディーだな、と思ったらMozartの魔笛序曲の第1主題と途中までほぼ同じです。実は例のピアノ対決の場でClementiがこの曲を弾いており、後年にMozartがその主題を魔笛でパクった(または「俺なら同じ主題でもっと上手く曲を作れるぞ」というのを示したかった?)らしいというのは結構有名な話のようです。最後のホ短調Op.40-2は個人的には一番印象に残らない感じ。

演奏は関してはさすがDemidenkoという感じでどれも情感豊かかつ華麗に弾いており、この曲の魅力を上手く引き出していることは間違いないでしょう。曲も思ったより面白いのですが、ただこれを機に別の曲も聴いてみよう、となるかというと微妙なところで、その意味ではMozartが例によって父親への手紙の中で彼のことを「機械的」だとか「tasteもfeelingもない」と貶したのもわからないでもないです。