GastinelのSchubertチェロ曲集

Anne Gastinel

ネットショップで配送料を無料にするために(目的のCD以外に)何か抱き合わせで買うCDはないかとネットを眺めていたら(要するにネットショップの思う壺にはまっているわけですが(笑))、GramophoneのEditor's Choiceにちょっと興味を引くCDが載っていたので買ってみました。Anne Gastinel(アンヌ・ガスティネル)のSchubertチェロ曲集です(と言ってもチェロのオリジナル曲はありませんが)。曲はアルペジオーネ・ソナタ、ヴァイオリン・ソナチネ第1番D384(チェロ編曲版)、歌曲のチェロ編曲版(セレナーデ、音楽に寄す、万霊節の日のための連祷、ます、影法師、水の上で歌う、幻覚、水車屋と小川)。アルペジーネ・ソナタも好きですが、面白そうだと思ったのは歌曲の編曲で、こういう試みはきっと今までにもあったのでしょうが、聴くのは初めてです。

感想ですが、まずアルペジオーネ・ソナタはなかなかの好演です。あまり大げさというか激しくになり過ぎず、かといって大人しくならず、表情豊かで気品のある歌い方。粘りがあるというか、吸い付くような弾き方が印象に残ります。ただ、これは私の好みの問題になっていしまうのですが、この曲に関しては私はBashmetのヴィオラによる演奏が非常に気に入っていて、チェロの朗々とした鳴りっぷりよりも、ヴィオラの渋〜い、しわがれたような、あるいは振り絞るような音に魅力を感じていてるので(これはヴィオラのというよりBashmetの芸なのかもしれませんが)、その点でBashmet盤の呪縛を打ち破るところまではいかなかったです。

そして問題の歌曲編曲集ですが、こちらもチェロという楽器で最大限に健闘しているとは思うのですが、期待に比べるともうひとつかな、要するに人間の声に比べるとどうしても表現力の点で一歩譲るところがでてきてしまうのかな、というところです。やはり楽器には楽器の得意なところがあって、音域の広さとか細かく素早い動きとか(例えばアルペジオーネ・ソナタを声で歌おうったって無理)、その利点が生かせないようなところで同じ土俵で競うのはどうしても分が悪いという感じです。また歌詞があるというのも音色を変化させられるという点で声に有利になっている気がします(例えばラララと歌うよりも歌詞付きの方が音色に変化が出る)。その点、歌うということに関してはさらにハンディのあるピアノであれだけ魅力的な編曲をしたLisztは偉い、というか声と同じ土俵で勝負しないようピアノの利点が活かせるような編曲をしたわけですが。

というわけで、歌曲のチェロ(でなくても他の旋律楽器でもいいですが)編曲版があまりポピュラーになっていないのはこういうわけなのかと思った次第です(てか、気が付くのが遅い?)。でも「水の上で歌う」は大好きな曲なのでチェロ版も十分感動的でした。