岡田博美のChopinエチュード全集

Okada Hiromi

日本人で最も洗練されたテクニックを持っているのではないかと常々思っている岡田博美がChopinのエチュード全集を録音したということで聴いてみました。岡田博美と言えば最近はライヴ録音が多いのですが、ライナーノートによるとChopinのエチュードはスタジオ録音したいと本人の強い希望があったそうで、満を持してのリリースということでしょうか。

で、感想ですが、残念ながらイマイチでした。最初の10-1は彼らしい気品のあるテクニックで快調に始まるのですが、次の10-2は細かく聴くと粒の揃いが?。10-4もスピード感があってよいのですが、次の10-5や10-8は妙に遅いテンポで爽快感がありません。(実際これらは手持ちのCDでも最長時間でした。)10-10もクライマックス部でテンポを落としたりして、ここはインテンポで鮮やかに弾き切るのが見せ場なのに、という感じです。Op.25も前半は悪くないのですが、25-6や25-12では妙なタメを入れるのが気になります。(彼のようなテクニシャンは、どんな難所でもサラっと弾くのが普通なのに、こういうタメを入れると何か技術的な制約なのかと勘ぐってしまいます。)一番イマイチと思ったのは25-10で、これはLortieの演奏でもモッサリしていて気になった曲ですが、彼のはさらにモッサリしています。次の25-11も遅めのテンポで打鍵も弱く、キレが感じられません(これも手持ちで最遅に近い)。

というわけで、彼は(こう言ってはなんですが)詩情とかカンタービレのセンスとか独創的な解釈とかで聴かせるタイプではないだけに、持ち前の技巧で瞠目させるものがないとちょっとつらいものがあります。彼ももう40代後半ということで、多くのピアニストの例に漏れず、下り坂に入ってるのかも知れません。