Vayrynenのアコーディオンによるゴルトベルク変奏曲

Mika Vayrynen

アコーディニストのMika Vayrynen(ミカ・ヴァイリュネン)がBachのゴルトベルク変奏曲を録音したということで、聴いてみました。彼は編曲物としてはこれまで展覧会の絵なども出しています(未聴)。

アコーディオンによるゴルトベルク変奏曲と言えば、15年以上前に出たHussongによる録音が有名です。アコーディオンと言えば横森良造くらいしか知らず、聴く前は「アコーディオンでゴルトベルクなんか弾けるのか?」と半信半疑だった私にこの楽器に対する認識を改めさせた盤です。実際、声部の弾き分け力に関しては(音を持続させたり音量を上げたりできる楽器の特性によるところも大きいですが)Gouldを超えてると思ったものです。(ある本によると、彼は録音の前にGouldのゴルトベルクを毎日聴いていたそうですが。)

で、Vayrynenの演奏ですが、まず良いところは、元気というか覇気があり、テンポも速めで推進力に満ちているところです。技巧的変奏での指捌きもなかなか聴かせるものがあり、ヴィルトゥオーゾ的と言ってもいいでしょう。一方でもうひとつなのは、まずテンポのコントロール。特に技巧的な急速な変奏でテンポが微妙に走ってしまうところがあります。またフレーズの終わりの音価を十分にとらないで次のフレーズに行ってしまうところがあり、せわしない感じを与えることがあります。もう一つは各声部の独立性というか対等性がHussong盤ほど感じられないこと。どうしても上声が優位になりがちで、特に三声では上二声に隠れてバスがあまり聴こえず、Bachの書いた対位法の妙があまり楽しめません。内声やバスの動きもHussongほど表情豊かではない感じです。

というわけで、全体的に勢いはいいけど仕上げはもうひとつというところです。でもまあHussong盤にはない魅力もあるので興味にある人は聴いてみてもよいかもしれません。