Jean-Yves Thibaudetの’アリア 〜 Opera Without Words’

Jean-Yves Thibaudet

Jean-Yves Thibaudet(ジャン=イヴ・ティボーデ)はもともと嫌いなピアニストではないのですが、いつからかDuke EllingtonやらBill Evansやらそっちの方面に手を出すようになって、あいにくその方面はまったく興味がないのでずっとスルーしていたのですが、久々に少し興味の湧くアルバムを出してきたので買ってみました。洒落たタイトルですが要するにオペラ・パラフレーズ集で、曲はSaint-Saensのサムソンとデリラ、R.Straussの薔薇の騎士、Gluckのオルフェオとエウリディーチェ、Pucciniの蝶々婦人などなど。以前ここで取り上げたMikhashoffによる編曲も3つ入っています。

ライナーノートを読むと、Thibaudetは子供の頃からオペラ(というか歌声)が好きで、自分はよい声は持っていないけれど、でも指で歌えることに感謝している、などとあるのですが、正直ThibaudetのCDを昔から聴いてきた私にしてみれば、彼の持ち味は粒立ちのよい明晰な音とあくまでクールな(時に無機的な)ピアニズムであって、こう言っちゃなんですが豊かな歌心とか、多彩な音色とか、singing toneとか、そういった言葉はあまり似合わないイメージです。で、聴いてみると果たして今回のアルバムもそのイメージは当たらずとも遠からず、といった感じ。技巧を要するような急速なパッセージとかは聴き栄えがするのですが、音符が少なくなって、所謂センスとかアゴーギクとか、聴き手を飽きさせない語り口の上手さが必要になるところでは、ちょっと退屈になってしまいます。(よく言えば真面目でケレン味のない演奏とも言えるのですが。)そういった「歌心」を余り必要としないという意味で、最後に置かれたWagner/Brassinのワルキューレの騎行は彼向きかと思ったのですが、ルール・ピアノフェスティバルでのTokarevの演奏と比べると、全体的に表現が一本調子で、盛り上がりというか起伏に欠ける感じです。(編曲者が違うので一概に比較できないかもしれませんが。)それよりはJ.Strauss II/Grunfeldのこうもりの方が、彼の技巧が生きて(多少無粋なところはありますが)しっくりいっているような気がします。