ピアノ演奏における「テクニック」とは

前回記事のコメントに触発されて、テクニックについての私の考えを。といっても当たり前のことも含まれていると思いますが。

ピアノ演奏におけるテクニックには、広義と狭義の2つがあると思っていて、狭義のテクニックはいわゆるメカニックと呼ばれる、主に指や手の動きの確実さに関するもの。簡単に言えば速く正確に目的の鍵盤を押さえる能力ということになるが、それ以外にも、打鍵の強さ(音量)のコントロールや、適切なタイミングでの打鍵・離鍵(音の長さ)といったことも必要で、これらがないと粒の揃った音にならない。もちろん多声音楽で必要となる指の独立や、また指だけでなく跳躍等で必要となる素早い手の移動なども含まれる。(ちなみにメカニックのうち指の動きに関するものは「指回り」と言ったりする。)これらメカニックは運動神経や筋力(瞬発力、持久力)など運動能力と深い関係にあると言える。

一方、広義のテクニックは、演奏者が頭に思い描く、曲の理想の姿(頭の中で鳴る音楽)を、いかに物理的な音に具現化するか、そのための技術全般と言える。これにはメカニックももちろん含まれるが、そのほかにも、輝かしい音、くぐもった音など自分の望む音色をいかに出すか、そのための打鍵の仕方、ペダルの使い方、体重移動の方法、呼吸法、等々。またレガート奏法などピアノをいかに歌わせるかという技術もある。またこれらのためには思い描く音と実際に出ている音を聴き比べて修正するなど「聴く」能力も重要になる。ちなみに世間で「表現力」と呼ばれているものの多くはここに含まれると思っている。

で、肝心となる、演奏者が頭に思い描く曲の理想の姿を、楽譜を元に作り出す作業がいわゆる解釈と呼ばれるもので、ここにはその人の読譜力、音楽センス、独創性、想像力、様式感等の音楽的知識などが総動員されることになる。テクニックがいかに優れていても、その元となる頭の中の理想形がお粗末であれば、結果として出てくる音楽はやっぱりそれ相応のものにしかならない。(ただし理想形は、師匠や他の演奏家などからパクってくることはできる^^;)もちろん理想形がいかに優れていてもテクニックが伴わなければやっぱり「絵に描いた餅」になる。

ちなみに、結果としての音楽がよろしくない場合、それが解釈の拙さによるものか、それてもテクニック不足によるものかは一般的にはわからない。(奏者の思い描く理想形を直接知ることはできないので。)たとえば音色が単調だったとしてもそれが奏者の狙い(解釈)なのかもしれない。ただメカニックに関する不具合は、(意図的に下手に弾くことはあまり考えられないので)技術不足の可能性が高いと言える。

ところで以前、ピアニストのピークは20,30代と書いたことがあるが、これは主にメカニックの制約からくるもの。それ以外の広義のテクニックに含まれる要素や解釈については知識や経験によって向上する可能性はある。もっとも、独善的になったりして必ずしも良い方向に向かうとは限らないが。