Ladislav Fanzowitzのデビュー盤

Ladislav Fanzowitz

Ladislav Fanzowitz(ラディスラフ・ファンゾヴィッツ)というスロヴァキア出身のピアニストのデビュー盤の感想を。曲はHorowitz編のカルメン幻想曲、星条旗よ永遠なれ、結婚行進曲、Cziffra編の美しく青きドナウ、Godowsky編のこうもりの主題による交響的変容、Balakirevのイスラメイ、Lisztのソナタロ短調という、意欲的というか、これでもかというプログラム。かなり腕に自信がありそうです。

これだけの曲をプログラムに載せるということは、かなりの実力の持ち主のはずなんですが、経歴を見るとあまり大きなコンクールでの入賞暦もなく、レーベルもあまり聞いたことがないところで、一抹の不安もあったのですが聴いてみると期待以上の出来。技術的にかなりしっかりしていて、少なくとも、表面的には指はよく回っているけど基礎的な部分がスッポリ抜けているようなナンチャッテ技巧派ではないことがわかります。Horowitzの編曲物ではさすがにVolodosやGavrylyukほどの精度や滑らかさとまではいかないのですが、十分に楽しめます。Cziffra編曲物も、自演のような暴れっぷりはないですがスマートで格調が高く、個人的にはこちらの方が好みかも。Balakirevのイスラメイも、終盤で少し音がlooseになってしまうところがあったのは残念ですが、技巧も十分、まさに正統派という感じの演奏でかなり好印象。特に、この曲や最後のLisztでもそうですが、全体的に音が充実しているのが良いです。録音の優秀さ(適度に残響が入り潤いがある感じの音)もあると思いますが、打鍵が輝かしく、強打でも濁ったり潰れたようにならないのが魅力です。色の白いは七難かくす、と言いますが、ピアノの場合は「音のきれいは七難かくす」というところでしょうか(別に彼に七難があるわけではありませんが)。最後のLisztも、さらに深い陰影があるとよいのですが、やはり音が充実。個人的にはこの間聴いた(Editor's Choiceに選ばれた)M.Groh盤よりはこちらの方が好みです。

あと彼に望むとすれば、彼にしか見られないような個性的な表現というところでしょうか。ともあれ、彼には今後も期待したいところです。